昨今のブラウザ事情と多様性
Firefoxって現代のIEだよねw
冗談で言ったつもりが「ダーシノさんが言っていた」と“Firefoxのサポートをやめたい”という主張の根拠として意図せず引用されたことがあった。不用意な発言に反省しつつ、自分が「なぜシェアの低いFirefoxをサポートし続けたいと思ったか」を深く考えてみた。(※私が感じている状況なので、実際とは異なるかもしれません)
はじめてのウェブ開発
私は、2015年に「フロントエンドエンジニア」としてのキャリアをスタートした。それ以前もASP.NET関連の開発でHTMLやCSS、JavaScriptを触っていた。
当時のIEやSafariは独自仕様が多く、ChromeやFirefoxでは動くコードがIEやSafariではうまく動かない、という問題が頻発していた。当時は 「IE◯すべし」という風潮があったが、IE6〜IE10時代の頃を知らない私としては「Safariのほうがヤバいのでは?」と思っていた。
2023年からのブラウザ事情
時は流れ、2023年頃からブラウザの進化が驚異的なスピードで進んでいる。たとえば2023年に追加されたCSS関連の機能では、CSS Nesting、Container query、:has Selector、Subgridなど、開発者が待ち望んでいた機能がどんどんサポートされた。
昨今のブラウザ開発はどこもがんばっているし、以前のようなブラウザ間における表示や挙動の違いもほとんどなくなった。
ブラウザの多様性と実情
現在のブラウザ市場は、プリインストールできるプラットフォームを持つ一部の企業が圧倒的なシェアを持ち、多様性が失われつつある。
Chrome
- 開発元: Google
- エンジン: Chromium(Google製)
- シェア No.1
- Draft段階の新機能を積極的に実装し、ユーザーにフィードバックを募っている
Edge
- 開発元: Microsoft
- エンジン: Chromium(Google製)
- ブラウザエンジンが同じなので、Chromeとだいたい同じ
Safari
- 開発元: Apple
- エンジン: WebKit
- Safari Technology Previewでは、Chromeに負けないくらい挑戦的な開発をしている
- メインストリームにマージされるまでにはラグがある
Firefox
- 開発元: Mozilla Foundation/Mozilla Corporation
- エンジン: Gecko
- 主要ブラウザの中で唯一の非営利団体によって開発されているブラウザ
- Googleが大量出資
- Corporationは営利団体
- ユーザーのプライバシー保護を重視しているが、シェアが1桁台にとどまっている
- 新機能の実装スピードは他ブラウザに比べて遅れる傾向があるが、致命的な遅れではない
「Firefoxって現代のIEだよねw」の真意
この発言は「Safariが現代のIEですよね?」という問いに、Firefoxの新機能実装がChromeやSafariに比べて遅れがちなことを皮肉ってネタにしたもの。
故に「Firefoxだけ使えない」≒「以前のIEみたいなポジションになっている」という意味で「Firefoxって現代のIEだよね」という発言につながったが、かつてのIEのような絶望感は抱いていない。
私の本意は、Firefoxを貶めることではない。現在の主要なブラウザエンジンは以下の3つしかない。
- Chromium(Google製)
- WebKit(Apple製)
- Gecko(Mozilla製)
合理的に考えるなら、Firefoxのサポートをやめたほうが良いのかもしれない。しかし、この中でユーザーのプライバシーを最も重視しているのがFirefoxだと思う。もし、Firefoxがいなくなると、ブラウザの選択肢は実質GoogleかAppleに限られてしまう。それを避けるため、そして多様性を守るためにもFirefoxのサポートを継続する意義があると考えている。
また、弊社は「インターネットインフラを提供する上場企業」という立場があるので、純粋に経済合理性だけを追求し、多様性をなくすという選択肢がとりづらい。中には「Firefoxのサポートをやめる」という情報に対し、何らかの電波を受信してSNSであることないこと騒ぎ立てる人がいる今日では、慎重にならざるを得ない。